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内視鏡検査で使用する鎮静剤:種類と量を正しく把握し、合併症や副作用を熟知する

検査後も低酸素血症などに注意

近年、患者の不安や苦痛の軽減を目的に鎮静剤を使用して内視鏡検査を行う頻度が高くなっていますが、副作用の発生も多くなっており、注意が必要です。苦痛の少ない検査や治療を行うため鎮静が必要であるという考え方が医師、患者双方に浸透している今日、内視鏡における鎮静は、@嘔吐反射が強い場合、A患者が鎮静を希望する場合、B開腹手術などによる腸管癒着などで、特に疼痛が強い場合、C精密検査のため時間を要することのある特殊検査(超音波内視鏡、食道ヨード液散布、ERCP)などの場合に行われることが多くなっています。

下の表は、使用される鎮静剤と部位別の頻度をまとめたものですが、使用頻度が高いのはベンゾジアゼピン系鎮静剤のジアゼパム、ミダゾラムです。ベンゾジアゼピン系は中枢神経の作用発現が早く、催眠・沈静・抗不安・健忘・筋弛緩作用があります。循環器への影響は小さく、軽い末梢血管抵抗の低下により軽度の血圧低下が見られる程度です。

薬剤名(カッコ内は製品名) 上部消化管(%) 下部消化管(%) 膵・胆道(%)
ジアゼパム(セルシン、ホリゾンほか) 40.7 29.2 33.8
ミダゾラム(ドルミカム) 39.6 30.5 42.3
ペンタゾシン(ソセゴン) 12.5 12.7 31.1
ペチジン塩酸塩(オピスタン) 11.4 27.8 17.8
フルニトラゼパム(ロヒプノール) 11.4 27.8 17.8
ヒドロキシジンパモ酸塩(アタラックス-P) 1.9 0.8 4.4
その他(アネキセート) 6.4 5.0 8.3
使用せず 32.6 30.7 3.1

すべての鎮静剤は呼吸および循環動態に影響を与えます。鎮静剤使用時には呼吸抑制(呼吸数の減少、チアノーゼ出現、呼吸停止、いびき、胸郭の動き、酸素飽和度)、循環抑制(血圧低下、徐脈、不整脈)、覚醒遅延(鎮静剤投与3〜5時間後に、再び眠くなる、注意力・反射運動能力の低下)などを観察する必要があります。また、鎮静前から患者の状態を正しく把握し、検査や治療の内容・方法を理解しておくことも重要です。

内視鏡室において鎮静剤を使用する際は、その種類や量を正しく把握し、検査時の合併症や鎮静剤の副作用を熟知することが必要です。鎮静剤の急速静注や、投与患者の放置は禁忌です。投与中の注意点は以下の通りです。

モニタリング

鎮静剤使用時には、自動血圧計、パルスオキシメータを装着し、検査中の患者の顔色や呼吸数などを注意深く観察します。なお呼吸抑制をチェックするパルスオキシメーターは、患者さんの血圧が低い、手が冷たい、マニキュアを塗っている、危惧が外れないようにテープで圧迫されているなどの理由で正しい数値が測定できない場合があるので注意が必要です。

呼吸状態の把握と対応

呼吸抑制や低酸素血症になった場合には、まず、誤嚥や気道閉塞の有無や、胸郭や腹部の動きを確認します。呼吸状態が悪い場合には、舌根沈下や体位による影響も考えられるため、呼吸しやすい体位への変換が必要です。呼吸数が少なければ、患者に深呼吸を促します。

通常、これらの対処で低酸素状態は改善しますが、もし改善しない場合は、速やかに酸素を投与します。なお、酸素投与でも低酸素血症が改善しない場合は、拮抗剤であるフルマゼニル(アネキセート)やナロキソン塩酸塩の投与が必要です。

循環動態の把握と対応

鎮静剤は循環動態へも影響を及ぼし、血圧低下をきたすことがあります。しかし血圧低下が神経反射による循環虚脱の場合には、深呼吸や酸素投与により改善することがあります。これらの効果がない場合は、輸液や薬剤投与を開始します。虚血性心疾患の患者には硝酸薬製剤(ニトロダームTTSなど)を予防的に貼付することがあります。

内視鏡検査の施行後も、呼吸抑制による低酸素血症、低血圧・不整脈、誤嚥、覚醒遅延による転倒などが起こりやすいので、注意が必要です。鎮静剤を使用する場合には、覚醒に時間がかかるため、患者には検査後1〜2時間の安静が必要なことを事前に説明しておかなければなりません。外来患者の場合は、鎮静剤の半減期が長く、自動車の運転などは危険が伴うため、公共の交通機関の案内や家族の付き添いを勧めるようにします。

代謝や排泄機能の低下が見られる高齢者や、肝障害・腎障害がある患者さんは、薬剤の半減期が遅くなり、覚醒遅延のリスクがあります。

 
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