内視鏡検査における患者モニタリング:呼吸や循環の抑制、覚醒遅延に注意
内視鏡室では、患者の不安と苦痛の緩和・軽減を目的に鎮痛剤や鎮静剤を投与する機会が多いため、内視鏡検査・治療時において呼吸や循環の抑制、覚醒遅延などに十分注意する必要があります。また緊急内視鏡などにおける偶発症(穿孔、出血、ショック)を未然に予防、あるいは早期発見するためにも、バイタルサインを含めて患者の状態をよく観察し、変化をいち早く察知しなければなりません。
基準となる呼吸数は12〜18回/分。呼吸回数だけでなく、そのリズムや深さも観察します。心電図モニターのインピーダンス法による呼吸数測定は、取り付けた電極の位置によって呼吸曲線にバラつきが見られる可能性もあります。
患者の指先に取り付けたパルスオキシメーターで、SpO2(血液中に供給されている酸素の量)を連続的に測定します。パルスオキシメーターを装着する指にマニキュアを塗っていたり、抹消循環が悪く指が冷たかったりすると正確な数値は測定できません。SpO2の基準値は95%以上ですが、内視鏡の挿入時に数値は低下し、鎮静剤の注入後3分以内に変動することが多いため、内視鏡による検査・治療の開始時に気をつける必要があります。胸郭の動きや呼吸音などで呼吸運動の状態を観察することも忘れずに。
呼気中の二酸化炭素の分圧または濃度を測定するカプノメータで、換気状態を観察します。基準値は35〜45mmHg程度。ETCO2は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)と相関するため、カプノメータで測定したETCO2の数値からPaCO2を推測することができます。
心臓が拍動した回数が「心拍数」、心拍動が抹消の動脈に伝わる回数が「脈拍数」で、脈拍数の基準は60〜100回/分。橈骨動脈などに触れて、脈拍数、リズム、弾力を確認します。
血圧は、高血圧などの基礎疾患のほか、不安や緊張、検査や治療による浸襲などで上昇し、鎮静下(セデーション)やショック状態で低下します。内視鏡挿入時から5分以内は、血圧が変動しやすい時間帯なので注意深く観察する必要があります。血圧の異常な変動は、輸液や薬剤を投与して、循環動態を安定させます。特に急激な低下は、ショック状態を疑い、モニタリングの数値とショックの5兆候(5p)である皮膚・顔面蒼白(Pallor)、発汗・冷や汗(Perspiration)、虚脱(Prostration)、脈拍微弱(Pulselessness)、呼吸不全(Pulmonary insufficiency)を観察します。
不整脈(心室性期外収縮、心房細動、房室ブロックなど)の発見に必要なR波(上向きの幅の狭い波)およびP波(心房の興奮を表す)が見やすいように、モニター心電図の3点誘導はU誘導を用います。
高齢者の内視鏡検査は生理機能、呼吸機能、嚥下機能の低下を考慮に入れる
青壮年期の患者と異なり、高齢者の患者に対する内視鏡検査は考慮すべき特有の要素がいくつかあります。まずは「脱水が起こりやすい」ということです。内視鏡検査は前日夕食後から絶食となりますから、体液量の低下、口渇を感じにくい、腎臓の濃縮力の低下が見られる高齢者は脱水が原因で基礎疾患が悪化したり、全身状態が悪化するリスクがあります。脱水を防ぐには、検査1時間前までに水分節酒を十分に行うように指導する必要があります。
考慮すべき2つ目の要素は「呼吸機能の低下」です。呼吸運動や換気量、気道分泌物の喀出能力が低下している高齢者は誤嚥が起こりやすい状態にあり、内視鏡の挿入が深刻な呼吸不全につながるリスクがあります。検査中は呼吸状態を注意深く観察し、酸素飽和度(SpO2)の数値をモニターし、万が一の時には速やかに酸素投与が行えるように準備しておく必要があります。
3つの目要素は「嚥下機能の低下」です。検査後に水を飲む際にはご縁が起きないように注意深く観察します。そのほか高血圧の持病がある患者が多いので、血圧に変動が起きやすい内視鏡の挿入後5分間に気をつけます。