腸管洗浄剤(モビプレップ、ニフレック、ビジクリア、サルプレップほか)の一覧と特徴の比較
大腸内視鏡検査で腸管内部の病変の有無を正確に診断するためには、腸内を綺麗にしてクリアな視界を確保する必要があります。検査の前処置に処方される腸管洗浄剤(下剤)は、腸管の内容物を押し出すことで腸内を洗浄する作用のある薬です。
腸管洗浄剤は、体液よりも浸透圧の高い「高張液」のモビプレップ、体液とほぼ等しい浸透圧を持つ「等張液」のニフレック、ニフレックのジェネリック医薬品であるオーペグとムーベン(2022年販売中止)、飲みやすさが患者に受け入れられているマグコロールP、服用量が圧倒的に少なくて済むピコプレップ、調剤の手間が不要のサルプレップ、唯一の錠剤となるビジクリアがあります。
複数の洗浄剤が存在し、医療機関によって使用されるタイプは異なりますが、いずれも腸内の容積が増大するため、極めてまれな事象ではあるものの腸管穿孔やアナフィラキシーショックを起こすリスクがあります。
腸管洗浄剤の一覧 | |||
製品名 | 風味 | 服用量 | 洗浄力 |
モビプレップ | 梅 | 1.5L | ◎ |
ニフレック | 塩 | 2L | ○ |
マグコロールP | レモン | 1.8L | △ |
ピコプレップ | オレンジ | 300ml | △ |
サルプレップ | レモン | 480ml | ◎ |
ビジクリア | 錠剤(無風味) | 50錠 | ○ |
数ある腸管洗浄剤のなかで最も使用頻度が高い下剤です。腸内洗浄に必要な時間が少ないのが利点です。体内の水分を利用して腸内容積を増大させるため、ニフレックより服用量が少なくて済みます。ただし、体内の水分を利用することで脱水が起こりやすくなるので、モビプレップの服用量の半分の水分を摂取することが必要です(モビプレップ1.5L+水分750ml)。
脱水を起こさないことが大切なので、患者さんが口の渇きを訴える場合は「モビプレップの服用量の半分」以上の水分を摂取させます。補給する水分はお茶、麦茶、ウーロン茶、紅茶などでも構いませんが、糖分や脂質が入っていないことを確認します。洗浄状態が悪くなり、内視鏡検査時に視野が妨げられる原因となります。
モビプレップが登場するまで市場占有率が最も高かった腸管洗浄剤です。等張液のニフレック(後発薬のオーペグとムーベンを含む)は、高張液のモビプレップのように体内の水分は利用せずに、大量の服用量(2L)に物を言わせて腸内を洗い流すイメージです。
体内の水分を使用しないため脱水のリスクは軽減されますし、腎機能が低下している患者にも使用できるのもメリットです。
服用方法も約2時間かけて2Lをゆっくり飲むというシンプルさは、高齢者の理解を得やすく、内視鏡室のコメディカルの受けもいいです。ただし、高張液のモビプレップに比べて服用量が増えるのが難点で、味が中途半端な点も相俟って、「2リットル飲み切るのが苦痛だった」というケースもしばしば。
主成分であるクエン酸マグネシウムの酸味がレモン(もしくはスポーツドリンク)に似ているため、現在の主流となっているモビプレップ、ニフレックに比べて飲みやすいのが最大のメリットです。
マグコロールPの服用方法は、製剤のパックに水を入れて1800mlにしてから、コップに移し1杯(約200ml)あたり約10分のペースで約90分かけて全部を飲み切ります。
ただし腸管を洗い流す力という点ではモビプレップ、ニフレックに若干劣るため、便秘の人には向いていません。溶解方法によって「高張液」としても「等張液」としても使用できます。
2016年に国内で発売された比較的新しい腸管洗浄剤です。ピコプレップの最大の長所は服用量の少なさ(150ml×2回)とオレンジ風味による飲みやすさです。
検査の前日の夜と当日の2回に分けて計300mlを服用します。前日はピコプレップを150mlの後、透明な飲み物(水以外:スポーツドリンクやソフトドリンクなど)を2〜3時間かけて1250ml以上飲む必要があります。
他の腸管洗浄剤に比べて洗浄力がやや弱いのがネックとなっており、検査食を前日ではなく数日前から食べるなどの対処法もありますが、患者の負担が増えるのであまり普及していません。検査前日の夜にも服用するため睡眠時間帯に便意がやってくるのも難点です。
ピコプレップをスタンダードとして使用している医療機関は少なく、過去に大腸内視鏡の前処置で苦しい体験(服用量が多すぎて飲めない、味が受け付けないなど)をした患者さんなど、他の下剤では検査の実施が難しいケースに使用されています。
2021年に発売された最も新しい腸管洗浄剤です。承認されてから日が浅いですが、洗浄力はモビプレップと同等もしくはやや優れているという評価。服用時に製剤をパックに移し替えたり、溶かしたりする必要はなく、ボトルからそのままコップに入れて飲むだけというシンプルさも売りの一つです。
ボトル1本(480ml)を30分ほどかけて、服用量の2倍の量の水分(約1L)と交互に飲んでいきます。最大でボトル2本(960ml)まで服用可能。苦みが残るレモン味。洗浄力が強いので、便秘気味の人にも向いています。
サルプレップの服用方法は、検査当日の1日投与、検査前日当日の分割投与の2タイプがあり、患者のニーズに合わせて選択されます。
腸管洗浄剤で唯一の錠剤です。ビジクリアは5錠を200mlの水分で15分かけて服用します。これを10回繰り返して計50錠を飲み切る必要があります。1錠のサイズが大きいうえ、強めの塩味という飲みにくさがあるものの、「液体の薬を1.5〜2L飲むのは生理的に無理! でも錠剤なら我慢できるかも」という患者さんが一定数いるため、ビジクリアはそのニーズに応えています。
洗浄効果は高いのですが、製剤成分による綿状の物質が腸内に残存して内視鏡の視野が妨げられるケースもあります。
リン酸ナトリウムを主成分としているため、体内の電解質バランスが崩れる可能性があり、他の薬剤に比べて使用禁忌が多くなっています。
これらの腸管洗浄剤の効果を高めるため、検査前日(便秘の患者さんは3〜4日前から)の食事は、@低脂肪、A低たんぱく、B低繊維の消化の良いものが推奨されます。具体的には、野菜や果物、キノコ類、海藻類、乳製品を避け、おかゆ、うどん、スープ、パン類、栄養補助食品(カロリーメイト、飲むゼリーほか)などを選びます。
手軽で確実なのは、大腸内視鏡用の検査食(低残渣食)を利用することです。キューピーの「ジャネフ クリアスルー3食セット」、グリコの「エニマクリンeコロン」は朝・昼・夕食のセットで1500円前後。味は検査食であることを考慮すれば十分ですし、ボリューム感と栄養のバランスも考えられています。
モビプレップ、マグコロールP、ビジクリアの飲み方の解説動画(編集:帝京大学医学部付属病院)
大腸内視鏡検査を受けられる方を対象とした腸管洗浄剤の解説動画(YouTube)です。医療機関の受診日から検査当日までの流れ、薬剤の飲み方、飲んでいい水分&ダメな水分、その他の注意点をわかりやすく解説しています。動画の作成は帝京大学医学部付属病院です。
検査前日:食事は、検査予約時に購入した検査食(低残渣食)を摂ります。夕飯は午後6時までに完了してください。→午後9時頃に医療機関で処方されたピコスルファートナトリウム(緩下剤)を水かお茶に混ぜて飲みます。水分補給は多めにすることで、腸の残留物が減り検査が楽になります。
検査当日:当日は禁食です。医療機関から指定された時間からモビプレップと水分のみを摂ります。
モビプレップの飲み方
コップ一杯(約180cc)のモビプレップを10分から15分かけてゆっくりと飲みます。同じペースで6杯(約1リットル)を飲みます。1時間以上、高齢者の方はもっと時間をかけて飲んでも構いません。
モビプレップを約1リットル飲んだら、その半分(500cc)の水分(水またはお茶)を補給します。この時点で便がほぼ透明になっていれば、これ以上モビプレップを飲む必要はありません。この時点で水のような便が出ていない場合にのみ、残りのモビプレップを飲むようにしてください。
検査前日:食事は検査予約時に購入した検査食で済ませます。夕飯は午後5時までに終えます。→同日の午後7時にマグコロールP2袋を水1.8リットルに溶かします。そこから約2時間かけて全てを飲みます。→午後9痔頃に医療機関で処方されたピコスルファートナトリウム(緩下剤)を水かお茶に混ぜて飲みます。このとき以外も水分は多めに補給してください。腸がキレイになり検査が楽になります。
検査当日:禁食ですので、水分の補給だけにしてください。便が透明に近い色になっていれば検査が受けられる状態です。
検査予約日:院内の薬局で緩下剤(排便促進剤)のピコスルファートナトリウム内容液、ビジクリア(50錠)を受け取り、コンビニで検査食(低残渣食)を購入します。
検査前日:食事は3食とも検査食で済ませます。夕飯は午後7時までに終えます。→午後9時頃にピコスルファートナトリウムを飲みます。
検査当日:当日は禁食です。検査の5時間前からビジクリア錠と水分だけを摂ります。その際、2リットルの水(お茶、紅茶もOK)を用意しておくこと。
ビジクリアの飲み方
15分以内にビジクリア5錠と200mlの水分と一緒に服用します。15分ごとにこの作業を合計10回繰り返して50錠のビジクリアを全て服用します。便の色がほぼ透明になったら検査が可能です。
患者さんが自宅で前処置を行うメリットとデメリット、医療従事者が注意すべき点
患者さんが自宅で前処置(腸管洗浄剤の服用)を行うメリットは、使い慣れた自宅のトイレを気兼ねなく利用できることです。腸管洗浄剤の性質上、短時間で5〜10回とトイレで排便することは避けられません。多くの患者さん、なかでも大腸内視鏡検査が初めての方は便失禁への強い不安を抱えているのです。便疾患は尿失禁に比べて精神的なダメージが大きく、他人の目がある医療機関での便失禁は自己否定につながり、心に大きな傷跡を残しかねません。
一方で自宅で前処置を行うデメリットとしては、@アナフィラキシーショックや腹痛などの事象に医療機関が迅速に対応できない、A患者さん、特に高齢者がが正しい服用方法で下剤を飲んだかがわからない、B洗腸状態(下剤の効果判定)を内視鏡室従事者が確認することができない、C来院途中で急な便意がやってくる可能性がある、などが挙げられます。
厚生労働省が2003年に発行した腸管洗浄剤に関する緊急安全情報によると、アナフィラキシーショックなどの重篤な副作用が発現する確率は100万人に1人となっています。また日本医療安全調査機構の発表によると2015年〜2020年までに腸管洗浄剤による死亡例は12件となっており、非常に稀ではあるものの、内視鏡室の医療従事者はこうした事態を想定して、在宅で前処置を希望する患者さんには以下の点について注意しておく必要があります。
- 患者さんの普段の便通、投与前の便通を確認しておく。
- 高度な便秘の患者さん、腸閉塞や腸管狭窄が疑われる患者さんには在宅での前処置は認めない。
- 便意以外の腹痛、めまい等が現れた時には腸管洗浄剤の服用を中止し、医療機関に連絡するように伝える。
- 脱水予防の重要性を理解してもらい、口渇があれば服用前に十分な水分補給を行うことを勧める。
- 服用前日あるいは服用前に排便がない場合、予め医師の診察を受けてから服用を開始する。
事故を未然に防ぐためには、検査予約時に患者さんに十分な情報提供と注意喚起を行い、また患者さんの状態について十分な情報収集をする必要があります。